糸・布からはじまる制作のこといろいろ
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エル・アナツイ展−@民族学博物館
「あ、NYで観た作品かも。」
ある展覧会のチラシを手渡されたとき、ふとその時の記憶がよみがえった。
家に帰ってから調べてみると、やはりそうだった。NYで観た作品と同じ作家の作品であった。
エル・アナツイの作品をはじめて見たのは、NYの美術館だった。NY滞在中、沢山の作品を観た中で、(作家の名前は覚えてはいなかったけれど、)その作品ははっきりと覚えていた。
その作品を遠くから観たとき、布のようだけど、何か違う。近寄ってみたら、アルミをつぶしたパーツがつなげられて作られた作品だった。
布のように見えたのは、その作品が、チープなアルミをつぶしたパーツでつなげられていながらも、布がもつ独特の表情、布自体の重さがつくる独特のドレープを形作っていたからだ。



「エル・アナツイのアフリカ−アートと文化をめぐる旅」と題された展覧会が、万博公園内の国立民族学博物館で開催されている。

展覧会の感想は、一言で言うと、「見に行ってよかった。」と思った展覧会だった。
作品については、あれこれ言わないけれど、やはり「布」「織物」にたずさわっているので、エル・アナツイの作品解説は、どうしても気になってしまう。

エル・アナツイのこのアルミのパーツ(お酒の瓶のふた)を銅線でつないだ作品は、「織物」と表現されている。
私は、この「織物」と表現されていることにひっかかりを感じていた。
なぜなら、構造的にはいわゆる織物ではないからである。
これは、織物と表現するより、パッチワークと表現する方が適切だと思っていた。
しかし、作品や、制作の背景を知る内に、これは「 」つきの「織物」だ。と感じるようになった。

エル・アナツイの父は、アフリカのケンテクロスという布を織る仕事をしていたそうだ。このケンテクロスは、ガーナの伝統的な織物で、テープというには幅が広く、布というには、ものたりないような幅狭の布で、その布を何枚も縫い合わせて大きな一枚の布に仕上げたものである。とても手が込んでいて、王様の衣服に使われる特別な布だそうだ。

ケンテクロス↓


このケンテクロスをみて、エル・アナツイの作品をみると、やはり何かつながりを感じる。
ケンテクロスが、幅狭の布を縫いつないでつくられているように、エル・アナツイの作品も縫いつながれ、そして、その模様は、ストライプ模様の幅の狭い布が、縫い合わされることで、タイルをしきつめたような模様となっているのと似ている。


伝統的な織物のケンテクロスは、王様の身につける衣服として、守られ、そしてガーナの伝統的な織物となり、それを織る職人も宮廷直属の職人たちによって織られている。
一方で、エル・アナツイの作品は、瓶の蓋(廃材)をつかって、エル・アナツイの工房で、学生やちが、ただひたすらパーツをつくり、縫いつなげつくられている。そして、その作品は、アート作品として、美術館や博物館に展示されている。しかし、アート業界での、アフリカ美術の評価は、西欧のアーティストがつくる作品にくらべると決して正当に評価されているわけではないとも指摘されている。

エル・アナツイの作品は、ケンテクロスとのつながりがみえたとしても、「伝統的なもの受け継いで」そこによりかかるわけでもなく、また、美術業界がつくってきた価値を自明のこととして作品を成立させるのでもなく、美術作品として強くその存在感をもっているように感じる。

彼の作品は、その作品の存在感だけでも充分に人を引きつける魅力をもち、また、社会的背景や、民族学的な視点からも語られ、知るほどにその作品のもつおもしろさを感じる。

この展覧会のカタログには、日本語と英語の解説が掲載されているが、英語で書かれた論文には、エル・アナツイのこの作品を「woven cloth」と表現し、textileとは書いていない。また日本のある研究者は、「織った布」と表現し織物とは記していない。
そう、私はここで、「織った布」という表現にピンときた。
エルアナツイの作品の「woven cloth」は厳密に日本語で表現するなら、textile/織物ではなく、「織った布」なのだ。

構造として織物かどうか、なのではなく、「織物」として見えること。
つまり「知覚」の問題で、彼はやはり彫刻家なのだ。
布のドレープを小さなパーツをつなげた稜線によってカタチづくることで、「織物」をより顕在化させる。
これは重要なことに気付かせてもらった。

他にもいろいろ考え、感じることのあったいい展覧会だった。
図録は、美術批評家だけでなく、民族学的、歴史的、社会的な背景に触れられた、中身の充実したカタログであった。
このような包括的なものを感じさせる作品、うらやましいと思った。

「彫刻家エル・アナツイのアフリカ」
場所:国立民族学博物館
期間:2010/9/16-12/7

参考資料:「彫刻家エルアナツイのアフリカ」展覧会図録より